駿河凧を目にしたときに、真っ先にお気付きになるのは、
まずその変わった形ではないでしょうか。
俗に“駿河のイカ凧”とも呼ばれていたというその形は、
通常の角凧と比べて、下部が左右に、
エラが張ったように出っ張っています。
これは、穏やかな駿河の風でも、凧がよく揚がるようにと、
先人達が試行錯誤のうえに生み出した形といえます。
糸目の付け方も、ごくシンプルなものです。
頭の左右の端と端とを引いて、全体を縦に反りを加える張り糸と、
中央にそって縦三本の糸目をつけます。
これもまた、糸目をつける時間すら惜しんで
凧揚げに興じたかった先人達が編み出した知恵なのかもしれません。
そして凧のサイズが大きくなるほど、
尾をつけずに揚げられるというのも、駿河凧の特徴といえるでしょう。
風を読みつつ、長い一本の凧糸を操れば、駿河凧のその独特の形が、
いかに駿河の風にあわせて作られたものであるかを
体感することが出来るのです。
駿河凧の変わった形に、最も合うものとして考え出された絵や構図も、
皆さんの目を引くことでしょう。
高く揚がっても絵柄が判り、空色に映えるよう、
人物の顔の部分をアップにした構図で、色彩豊かな絵となっています。
幕末期の凧ブームに最も目覚しい発展を遂げた凧絵は、
当時、100種類を超えていました。
とはいっても、江戸時代、徳川幕府下で描かれた絵に、
徳川家康など、徳川家の将軍が絵描かれたものは、ありません。
源平合戦や戦国時代のものが題材として描かれ、今に伝わっています。
絵の種類は、武者絵・歌舞伎絵・童子絵が大半です。
現代の人々の歴史離れという風潮が影響してか、
売れ筋の人物絵は10~20種類に限られています。
「絵」というより「柄」と観る方が増えているのも嘆かわしいところです。